インタビューシリーズ第17回 熊仁美さん

インタビューシリーズ第17回 CCJA2018年入賞者

 

熊仁美さん

NPO法人ADDS 共同代表)

 

  1. JWLIとのかかわり

チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞(CCJA)では、入賞のメールを受け取って初めてCCJAについて知り、びっくりしました。ETICでお世話になっていた方に選考委員としてまたお会いすることになり嬉しかったです。わかりやすく表彰をいただく機会がなかったので、おめでとうとたくさんの方に言っていただきましたし、「これまで10年、しっかり活動を続けてきたから賞をもらえたんだから、誇りに思いなさい」と伝えてくれた方もいました。節目節目でお世話になった方たちからご連絡をいただけたのは嬉しかったです。

 

  1. これまでの活動、これまでに乗り越えた危機・失敗(活動の中での具体的なエピソード)

2006年に学生サークルを立ち上げたのがきっかけです。そこから2009年にNEC社会起業塾に入塾するタイミングで、起業をしました。もともと子どもが好きで大学では心理学を学ぼうと決めていましたし、子ども支援をしたいと思っていました。いろいろな心理療法を勉強して、自閉症の子どもに笑顔が増えました、などなどの報告を聞いて、それももちろんとても大事なのだけれど、「療育とかセラピーって、こういったあいまいな成果に対してお金を払うものなの?るのか」とびっくりしました。笑顔を増やすことが大事なのは当然なのですが、自分にとってそれを「セラピー」や「療育」ということに違和感があったんです。

そうした違和感の中で、応用行動分析(Applied Behavior Analysis; ABA)という心理学に出会いました。例えば、靴を履くのが難しいお子さんに、すごく細かくステップを踏んで靴が履けるよう導くなど具体的な解決への道筋が見えるものでした。ABAに基づいた療育はアメリカを中心にで発達してきており、自分が携わりたいのはこういうことことだと思いました。そんな時に、竹内が自閉症のある子どもの家に家庭教師に行っているというのを偶然聞いて、すぐに一緒に行き始めました。

10年ほど前、日本でこのABAに基づいた療育手法に着目し、広げようと頑張っていたのは親御さんたちの会でした。日本には専門家がほとんどいないので、海外から講師を呼んだり、自分たちで英語の資料を翻訳したりして、当事者の親御さんたちが自ら我が子の支援を担っている状態でした。学生セラピストを親御さん自ら教育して、我が子にABAに基づいた療育を受けてもらうという段階だったので、最初はむしろ親御さんたちから教えていただいて活動を続けてきました。この経験から、専門家主導じゃなく、親御さん主導のやり方というのが今も明確な信念として団体の中心にあります。

この手法を広げていく段階では、他の専門家に理解を得るのに苦労はありました。ですが、これまでの手法と違うところも多いけれど、共通点も同じくらいあるので、共通点を強調して仲間を増やしていっています。例えば、失敗して強くなるという考え方がありますが、失敗から学ぶことが出来る段階というのは、それまでに成功体験が積みあがっている段階です。最初から失敗させてしまっては、子どもたちは社会や人とやり取りをすることに喜びや楽しみを見いだせず苦労をすることがあります。ABAに基づいた療育では、「失敗させないような教え方」「失敗させないような学びのデザイン」を緻密にします。褒め方もひとりひとりに合ったやり方をします。誉め言葉や笑顔だけでは十分に伝わらない場合は、おやつやおもちゃも介在して他者とのやりとりに喜びを覚えてもらったり。まず、お子さんのやる気やモチベーションの引き上げ方まで含めてお伝えし、具体的な支援に取り組んでもらううと支援者も成果を感じられるので、この新しい方法も受け入れやすくなります。

 

  1. これからやりたいと思っていること

家庭で療育ができるようなプログラムを開発して効果検証をしていて、全国の民間療育機関のみなさんに実際に使って頂くところまでやってきました。今取り組んでいるのは、公的施設でこのノウハウを使ってもらうこと。民間施設は親御さん自身が質の高いサービスなどを探して初めてたどり着くものです。本来、効果的な支援は、自力でたどり着ける親子だけに届けばいいというものではないはず。公立のセンターであれば、例えば検診で指摘を受け、よくわからないままに、「言われたので来ました」という状態にある親御さんと出会うことができます。地域にエビデンスに基づいた療育を受けられるサービスが当たり前にあるというのが大切なので、これを広げていきたいと思っています。

日本は95%の子どもが検診を受けるという世界に誇れるシステムを持っていますが、その後のフォローが少ないのが課題です。現状は、検診での発見が子どもの利益になるというよりは、レッテルを貼られるというネガティブなイメージがあるように思います。検診の後の見通しが親御さんに伝わっていないことが、不安の1つの要因だと思います。オンラインの発達相談を立ち上げたのは、どんな時も安心して、発達のことを相談できる環境保証される仕組み作りが大事だと思ったからです。療育の前のちょっとしたサポートでその後がスムーズになるはずだと思います。

 

  1. 座右の銘/大切にしている信条

竹内と私は逆のタイプですね!私はあまり歯は食いしばらないほうです。笑 自分がやりたいことに忠実でいるほうが、パワーが発揮できるタイプです。我慢してやりたくないこともやるのが美徳、とか苦労は買ってでもしろ、といった考え方は害が大きいと思っています。発達障害の子どもたちと接する中で、強くそう思います。マジョリティによって一般的によしとされるルールの中で、我慢して過ごすことが、「君のためなんだ、社会に出たときに困らないためなんだ」と子どもたちは言われ続けています。そういう生き方は私自身もしんどいし、人にも子どもにも押し付けたくないんですね。社会全体で、違いに寛容な人が増えると、発達障害の子どもたち、ひいては私たちを含めたすべての人が生きやすくなるんじゃないですかね。自分のやりたいことで食いしばるのと、社会のルールに合わせようと食いしばるのは違うことだって思います。

NPOの立ち上げからお世話になっている川北先生に、社会起業塾の冒頭でガツンと言われた、「社会に良さそうなことをしたいのか?本当に社会を変えたいのか?」という言葉は、迷ったときに、常に問い続けている、大切な言葉です。「社会によさそうなこと」を自己満足でやるのではなく、本当に社会の変化に貢献できることをやりたいという想いは、組織全体の指針にもなっています。個人的には、「世の中8割はどうでもいいこと」という感覚も大事にしていて笑 大切な2割はしっかり意志を貫くけれど、あとの8割は優しく、寛容でいたい、と思っています。

 

  1. 楽しい質問
  • (好きなものや好きな人を教えてください、というインタビュワーの言葉に対して)息子が可愛くて、日々溺愛してます。フォルムからして、かわいい・・・!子どもって本当に心が美しくて、純粋に愛をくれるし、自分もそうありたいとお手本として崇めています。もちろん、子育てって大変だな、難しいな、という想いも日々感じていますが・・!
  • 4人で起業して10年くらいずっと仲良しでやっているのは何て幸せなことなんだろうと思っています。このコミュニティがあること自体がある種の富かもしれません。一方で、そういうコミュニティがない人も沢山いて、それはそれで多様性だと思っていますコミュニティの絆が強いことは、外とつながる機会を減らしてしまう、で広がりがもちにくい、といった弱みにもなりうる。でも後から作ろうと思っても作れないつながりだから、そこには改めて感謝をして、大切にしていきたいと思っています

 

  1. インタビュワーYuki’s Comment

第16回インタビューのNPO法人ADDS共同代表 竹内弓乃さんとは全く違うキャラクターで、「私は歯は食いしばらない!」と言っていた仁美さんでしたが、座右の銘が思いつかずにインタビュー後にお仲間に聞いてくださったら「機能重視」「言行一致」「行動あるのみ」など、かなりストイックな姿が浮かび上がってきました。パーソナリティのまったく違う二人の力がぴったりと合致して、ADDSを作り上げてきたのだなと強く感じました!理事との素晴らしいチームワークも、活動の秘訣の大きな要素だと思いました。