インタビューシリーズ第8回 江刺由紀子さん
JWLI Bootcamp Ishinomaki 2019年卒業生
江刺由紀子(えさし ゆきこ)さん
1.何をやっているか/やってきたか
インドで双子の出産・子育てを経験。英語、日本語、ヒンディー語がごちゃ混ぜの子供たちを見て、自分が子供に財産として残せるのは日本語だと思い、そのために絵本の読み聞かせを始めました。また、孤児院や盲人学校で絵本や紙芝居を読むことで楽しい気持ちを隔たりなく共有できる体験もしました。岩手県大船渡市に戻った2003年は「活字離れ」から子供の読解力の低下が問題となっていたこともあり、読書活動の推進目的の任意団体をスタート。月に30回のペースで活動しています。
2011年3月、東日本大震災の2週間後から避難所を回り読み聞かせ活動を再開。数冊の絵本を携えて避難所に行くと「ころりんさんが来た!」と子供たちが駆け寄ってきました。悲惨な状況下での笑顔は忘れられません。普段の活動で築かれた信頼関係を読み聞かせを通じて確認し、見守られている安心感が子供たちの心のバランスを保つことにつながったと見ています。私の動きを知った仲間8人が11ヵ所の避難所で2カ月間の活動をおこないました。
その後、仮設住宅、災害公営住宅や高台移転先など、被災者の移動に合わせて活動場所を変えていきました。本を通じた地域コミュニティ再生目的で、住民、特に高齢者の交流会を展開しました。彼らが子供たちに読み聞かせをする交流も充実しました。「自分は生き残ってしまった」という気持ちから、「子供の役に立てた、喜んでくれた」という前向きな心への変化が地域を明るくしていきました。
新型コロナウイルスの影響で人を集める交流会開催は難しくなったため、手紙のやりとりをする活動も新たに立ち上げました。会えなくても文通で心をつなぎます。社会の変化に柔軟に応じて、手段を変えながら、より良い地域になるよう力を尽くしています。
2.これからのビジョン
自分がやりたいことも大事だけれど、地域に必要とされていて自分たちに出来ることを模索するのが私のやり方。 大船渡の課題は、復興期間10年の後、どのようにして持続可能なまちづくりをするかです。人口減少と少子高齢化は東日本大震災により格段と深刻化しましたが、これを緩やかにし、誰もが支え合って皆が笑顔で暮らせるまちづくりがしたいと思っています。
現在おはなしころりんの会員(読み聞かせ活動を行うメンバー) は44名、皆「普通のおばちゃん」です。一部の人間だけが行動するのではなく、住民一人ひとりが気持ちを持ってアクションを起こせば社会は変わると思います。元気のいい「おばちゃん」たちが地方を明るく変えていく、そんなことを考えています。
3.今困っていること、助けを必要としていること
防災やまちづくりに対して住民の関心が薄れつつある現状に対し、どうしたら意識向上が図れるに悩んでいます。震災後何年かは、自分たちが住む地域の将来像が見えませんでした。例えば、防潮堤がいつどんな高さでできるのかもわかりませんでした。それで、多くの住民が話し合いに参加し意見をぶつけ合いました。しかし、防潮堤ができてしまえば、集まりへの参加者数は減るばかり。100年後の子供たちのために、再び住民の思いをひとつにできたらと思います。
4.誰と/どことつながり、どんなアクションを一緒に取りたいか
ここ8年くらい東南アジアの子どもたちと本を通して交流しています。シャンティ国際ボランティア会と伊藤忠記念財団のご協力のもと、東南アジアの社会的に立場が弱い子供たちの施設に、大船渡の子どもたちが手を入れた絵本を300冊を届けました。私自身、ミャンマーとカンボジアに視察に行ってきました。大船渡の子どもたちは実際には会ったことはないけど同じ地球にいる友達として、海外の子どもたちと支え合う感覚を持てる企画です。被災から10年の2021年以降この企画がどうなるか心配なところではあります。大船渡の子どもたちがグローバルな視点を養えるように、活動を続けていきたいです。
5.提供できるスキル/強み
- 長年、読み聞かせ活動をしてきた地域との強い信頼関係があります
- 絵本専門師として絵本の紹介や読書の楽しさを発信できます
- 田舎でのコミュニケーション力:子どもからお年寄りまで、男女も問わず、「空気づくり」ができます
- 方言:大船渡のなまりで、民話を紙芝居に起こす活動をしています。方言は地域のお年寄りと打ち解けるきっかけのひとつにもなっていますし、自分たちの土地のことを子どもに伝えていく手段にもなっています。
6.楽しい質問(趣味、好きな映画、嫌いな食べ物など)
- ラジオパーソナリティが楽しいです!震災後に防災無線が、地域の「FMねまらいん」(意味:ゆっくりしてください)に姿を変えました。金曜日の夕方5時から7時の生放送でメインパーソナリティをしていて、金曜日の夕方はワクワクします。放送の中でももちろん、絵本を紹介したり民話を方言でお話したりしています。アプリ(https://fmplapla.com/fmnemaline/)で聞くことが出来ますので、ぜひ!番組へのメッセージ待っています!
- 地元の女性起業者、女性経営者等で「けせん女志会」というネットワークをつくっています。ともに学んだり、悩みを共有したり、フェスを開催して学びを実践に生かしたり、楽しく事業をおこなっています。会長は設けず、有志数名でリードするという新しい形の組織の在り方を探っています。
7.インタビュアーYuki’s Comment
困りごとを聞いた時、「困ったことがあったら、すぐアクションしちゃうからあんまり思いつかないかも」とおっしゃっていた由紀子さん。さすが、行動指向型の素晴らしいリーダーです。東日本大震災の復興の中、刻々と変わっていく状況に対応しながら、長年地域で活動してこられたしなやかな強さを感じました。地域の文化や人にしっかりとよりそいながらも、子どもたちにも世界とのつながりを感じてもらいたいと幅広く活動を続けている由紀子さんでした。