インタビューシリーズ第7回 田村亜紀子さん
チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞2018年入賞者
田村亜紀子(たむら あきこ)さん
1.何をやっているか/やってきたか
長男が2歳9か月の時に小児がんになって、活動を始めました。息子が入院中は病気を治すことばかり考えていましたが、退院して、健康なお子さん達が走ったり、大きな声で笑ったりするのを見て気が付いたんです。入院中の子どもは、大部屋に入っていたり家族が一緒に過ごせる場所がなかったり、環境によって行動が制限されているんですね。そこから2005年に医療者や小児がんの子どもの親御さんたちが集まって、1つのモデルとしてチャイルド・ケモ・ハウス(以下、「ハウス」)の建設を目指す活動を始めました。多くの一般の方々・企業・財団等の協力も得て2013年に設立。ハウスは、大病院で治療を受けている小児がんのお子さんや終末期のお子さんのために、おうちの代わりに過ごす場所として機能しています。
今ハウスで受け入れているのは小児がんの子どもが中心ですが、それ以外に小児慢性特定疾病児童等の自立支援事業の委託を5年ほど前に受けて、訪問支援をしています。相談支援はもちろん、遊びや学習の支援もします。ハウスを建てるのは大きな目標ではありましたが、重い病気のお子さんすべてを受け入れられないことも事実です。すべての病院、社会全体が、小児がんに限らず重い病気のお子さんと家族が過ごしやすいものになればと思っています。
2.これからのビジョン
この活動を始めたときにすごく多くの共感者がいることに気づきました。支援者には、自分や自分の子どもが病気を持っているわけではない方も多く、自分がハウスを利用するわけでも、ハウスを支援しても自分の生活がよくなるわけではないけれども、支援をしてくださっているんですね。自分にメリットがなくても、みんな夢を乗せてくれているんだと思います。その想いにお返しをするとしたら、
ハウスだけじゃなく「自分の周りも変わっているな」と支援者の方にも思ってもらえることが今後大切だと思っています。当団体で支援している人は、スタッフには子どもの病気のことを話せても身近な人には話せないという悩みがあります。健康な子どもとご家族たちが突然「あっちの世界」のように思えてしまうんです。そこで、専門的な支援者が増えるだけでなく、身近なところに理解して温かい目を持ってくれる人たちを増やす活動をしたいと思っています。専門的な支援者が近くにいなくても支えることができる社会を目指したいんです。理想を語っているように思われるかもしれないけれど、医療の進歩によって「病気を持ちながら生きていく」ことができる子どもたちが増えているので、特別なスペシャリストだけが支援していては追いつかないんです。身近なサポーターを育てて、認定するような制度作りをしていきます。
3.今困っていること、助けを必要としていること
3月から感染症対策をしながら支援方法を検討しては、見直しを続けています。医療者の間でさえどれくらい厳重に感染対策をしないといけないかが違うんですね。学校に行っていいのかいけないのか、どこまで心配すればよいのか、主治医の先生によって言うことも統一されてはいません。リスクを少なくするのはもちろんだけれど、メンタル面の負担をどこまで考えるか、医療者も難しい内容だと思います。そうした中での不安のガス抜きを私たちがどうするか。当団体ではオンラインもオフラインも併用しながらきめ細かい対応を今はできていますが、人手はギリギリでなのでここままこの状況が続くとつらいですね。
4.誰と/どことつながり、どんなアクションを一緒に取りたいか
医療機関はもちろんですが、教育機関とつながっていきたいと思っています。今、ご家族からの声で多いのが、「この子が大きくなった時にどういう社会になっているのか考えると不安が大きい」ということ。将来を作るのは今の子どもたちなのだから、その未来の社会を作る子どもたちに疾病や障害のことを知ってもらうのが大切だと思っています。自分たちの社会が疾病・障害を持った人にとってどういう社会なのかを考える機会を与えたい。今はほとんど触れる機会がないので。例えば、小児がんだった息子は髪の毛がなかったので、小さい子どもに「ハゲ!」と言われることがありました。けれどそこで、「ハゲ」と言った子どもになぜ髪がないのかを説明したら、事情を理解して「ハゲはがんばってる証拠!」と言うようになりました。「見ちゃだめ」「言っちゃダメ」と言わずに、周りの大人が教育をするのが大事だと思います。新型コロナウイルスの影響で授業が圧迫され、教育機関に出向いての講演の機会は減ってしまっています。こうした状況下でも、先生と一緒にがんばって子どもたちに伝えていく、協力しあえる関係づくりができたらと思っています。
5.提供できるスキル/強み
- 保健師・心理士のスタッフメンバーがいます
- 当事者の声が蓄積されています:ハウスも当事者の声から生まれた施設。つらかった経験もありますが、「こういうことをしてもらって嬉しかった」という経験をたくさん聞いたんですね。そういう声から、一人ひとりどういうことが出来るかを考えるヒントになると思います。
6.楽しい質問(趣味、好きな映画、嫌いな食べ物など)
- いい映画を見ると幸せ:「ライフ・イズ・ビューティフル」というイタリア映画がおすすめです。ナチスドイツの時代を描いたもので、つらい現実と向き合うために父親が子どもに「これはゲームだ」と教えてそれを貫く。過酷な環境であればあるほど、親がそういう風に思わせないのが大事だなって…学びがあります。
7.インタビュアーYuki’s Comment
「ハウスにはみんなが夢を乗せてくれている」という言葉が印象的でした。亜紀子さん自身も、ハウスが建設された時にはすでに息子さんが亡くなっており、ご自身がこの施設を利用できるわけではありませんでした。直接施設を利用するわけではない方たちをも巻き込んでいく、当事者の声に寄せられるたくさんの共感の気持ちが、とてもあたたかい支援コミュニティを作っているのだなとほっこりした気持ちになりました。
また、「医療の専門家だけではなく、身近な人々が重い病気を持つ子どもたちや家族を支えられるような社会」というビジョンは、インタビューシリーズ第5回の矢田明子さんの「コミュニティナース」の考え方にとても近いなと思いました!