インタビューシリーズ第13回 岩岡ひとみさん
インタビューシリーズ第13回 2019年JWLI Bootcamp Nagoya 岩岡ひとみさん
岩岡ひとみさん
(NPO法人全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)事務局長)
1、JWLIとのかかわり
JWLI Bootcamp Nagoyaに参加した具体的なきっかけはよく覚えていませんが、それまでにも複数の方にチャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞に推薦していただいたり、JWLIのボストン研修にも行きたいと思いながら過ごしていたりして、JWLIのことは長く知っていました。なかなかボストンに行く時間が作れないなと思っていた時に、名古屋でBootcampが開催されるということを知り、参加することになりました。JWLI創設者・厚子さんの情熱的な励ましですっかりエンパワーメントされて、受講後に沢山新しいチャレンジをすることになりました、受講者の皆さんとは各分野で色んな連携ができるように取り組みを進めています。
2、活動の内容とこれまでに乗り越えた危機・失敗
介護施設・障害者施設や高齢者・障害者の自宅に出向いて髪を切ったりパーマをかけたりと、理美容のサービスを提供することから活動が始まりました。その後、がん患者さんへの医療用ウィッグの提供や、被災地での理美容サービスの提供など活動の軸は当初より増え、活動の安定にもつながっています。高齢者・障害者・がんの患者さんの外見を変えること(アピアランスサポート)から、外見を整えることでと内面から湧き出る活力を生み出し、その人がその人らしく過ごせるようにという願いがあります。
私自身は、子育てをしながらこの仕事をしてきているので、ワークライフバランスという視点の個人的な危機はあるけれども、団体としての危機は少ないと思います。有償でサービス提供をしており、NPOとして事業収入の基盤安定している方だと思いますし、資金調達面で大事にしていることは、既存の事業費が足りなくなってお金を集めるのではなく、新しいことをするためのポジティブな形でのチャレンジにしたいという点です。団体設立当初から「いいことしているのだからお金を下さい」は通用しないと思っていて、ビジネスとしてのクオリティを担保するというポリシーを持ってやっています。
こうした活動のスタイルは、2009年に行ったイギリスでの研修の影響も大きいと思います。年間60億円くらいの事業規模の介護系NPOを訪れた際に、この団体がその規模を活かして政策提言までしっかりやっているところを目の当たりにしました。継続性のある活動基盤がないとインパクトのある事業展開ができないと思ったので、やはり有償できちんとスタッフが雇えるくらいの収入を確保しながら、公的機関からの委託に頼らず活動の自由度も担保しようと思いました。お金がもらえるから手を出すという形では助成金には手を出さず、しっかり自主事業を育ててきたことが活動資金の安定につながっています。企業とも他の団体ともフェアな関係を築くことも大切だと思っています。ソーシャルビジネスとしてサービスと物品の販売で収入を得つつも、価格を押さえたりして公益性を担保したりバランスを取っています。介護事業の一端としてサービスがある程度社会化されていて、受益者負担ができるサービスを基盤として確保しているということで。そこで稼いだお金や企業からの寄付などで、本当に困っている方々に無償でサービスや商品を提供したり、啓蒙などに力を入れたりとNPOらしさを活かしてハイブリットな形で運営をしています。
3、これからやりたいと思っていること
若年層やシングルマザーなどの支援をしたいなと思っています。子育て中のママや休眠美容師と呼ばれる資格は持っているけれども理美容の仕事に今はついていない方に、福祉理美容のトレーニングを提供し、もう一度鋏を握ってもらって、年を取っても続けられる仕事として人材を育成するということはこれまでも続けてきました。しかし現在、新型コロナウイルスの影響で若い美容部員や美容師が雇用を切られたり、そもそもフリーランスだったりして、非常に不安定な状況にいます。休眠預金事業の一環で福祉理美容の専門人材のキャリア育成を始めています。女性の職域を広げ、女性が自立するステップを支援できればと思っています。
さらに、コレクティブ・インパクトを起こしていきたいです。現場でずっとミクロな課題を追い続けていると壁にぶつかり続けて、マクロなものを変えないといけないという所にたどり着いたと思います。目の前の人と助けることは大事だし、満足もしがちだけれども、そこで満足したら私たちが活動を辞めたらその活動はそこで終わってしまいますよね。私たちは新しい当たり前を創っていきたいと考えて活動してきたのですが、現場のレベルの政策提言ではなかなか効果は薄い気がしていて、もっと介護や医療の専門家として学びを深めていく必要があると考え、この4月から大学院で医療政策を学ぶ予定です。コレクティブ・インパクトを目指して、現場にしっかりフィットする制度改革にも取り組んでいかないと、現場の担い手に負担がかかりすぎて、結果サービス受益者の生活の質向上にはつながらないので、現場の細かな課題をマクロな視点を持ちながらダイナミックに変えていきたいと考えています。
それから、いま愛知県長久手市で新事業を計画しています。本部を移転して、3階建ての福祉複合型のセンターを2022年の2月に開設します。がん患者さん向けのアピアランスサポートセンターだけでなく、コミュニティセンターのような、暮らしの保健室のような、寺子屋のような地域の困りごとを地域の人とかいけつしていくような場所にしたいと思っています。「ながくて大学」のような、親子で通える生涯学習の場として。100年人生時代に向けて親も学び直し、子どもは地域の大人たちと沢山ふれあってキャリア教育を受けられるような。半分塾で半分カルチャースクールのようなものにもチャレンジしていきます。
4、座右の銘/大切にしている信条
「何をやるかより誰とやるか」
団体の理事長とは、もう17年くらい一緒に仕事をしています。理事長は突拍子もないビジネスアイデアを言いだしそうな感じの人で、例えば、急にうどん屋をやろうと言いだしかねない。でもそう言われたら、「子ども食堂的なうどん屋にしましょう!」など、提案はすると思いますがそれがなんであれ一緒にやると思います。このメンバーなら何をやっても素敵だなと思える仲間と一緒にやるというのを信条にしています。企業と一緒に活動をするときでも担当者の思い入れ次第で結果がまったく違ってきます。だから「何をやるかより誰とやるか」を大事にしています。そういう風に考えたら、人に仕事を頼む/担当者を決める時にもすごく面白いと感じますよ。
5、楽しい質問(好きなもの、こと等)
お料理好き・お酒が好き:もくもくとニンジンを刻むと邪念がなくなって好きです。時間を決めてご飯が炊けるまでの40分で何品目作れるかにチャレンジしたり、買い物に行くときから段取りを考えてやったりするのが好きですね、小さい達成感があるので。40分くらいですべてをやり遂げた気持ちになるのが好きです!
6、インタビュワーYuki’s Comment
17歳で結婚・出産をし、その後、理美容の世界で働いてきたひとみさん。「『ああいうのがありならなんでもありじゃない』と思える飛び道具的なロールモデルとしてアリじゃないかな」と語っていましたが、まさにその通り!女性として様々なキャリアデザインの在り方を体現しているリーダーだと思います。現場を大切にしつつも、さらなる社会的インパクトを目指して、大学院での学びと新規事業の立ち上げとパワーアップしていくひとみさんの今後のご活躍に、ますます期待が高まるインタビューとなりました。