インタビューシリーズ第16回 竹内弓乃さん
インタビューシリーズ第16回 CCJA2018年入賞者
竹内弓乃さん
(NPO法人ADDS 共同代表)
1. JWLIとのかかわり
チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞(CCJA)は他薦なので、入賞したというメールをいただいて、初めは何かの間違いかと思いました。授賞式では、以前助成金をいただいた時の審査側にいた方も来てくださっていました。CCJAチラシで私のことを見つけてくださり、わざわざ来てくださっていました。その後、個人的に寄付もいただきました。コロナもあるので会うことはありませんが、他の入賞者の方とつながれたのもいい刺激になっています。他の方が活躍しているのを見ると、勇気づけられます。
2. これまでの活動、これまでに乗り越えた危機・失敗(活動の中での具体的なエピソード)
私と熊が共同代表で、学生時代のゼミの後輩2人が理事にいます。KDDSという学生団体を熊と2人で立ち上げたのが始まりです。大学院の修士課程を修了した時に今のADDSを立ち上げました。熊と一緒に修士論文を提出して博士課程に行くつもりだったんですけれど、二人とも修論を書くのに一生懸命で博士課程に行く願書を出していなかったんです。指導教授に話もして、奨学金も約束されていたのに、事務的にもう入れませんとなってしまったんです。思い描いていた大学での研究がガラガラと音を立てて崩れましたね。3日くらいは落ち込んだんですが、願書を2人揃って出し忘れるなんて普通に考えてありえないから、何か今始めろと言うことだね、と。マンションの一室を日曜日だけ借りてADDSの活動をし、大学でも嘱託として働きながら、発達障害があるお子さんと親御さんと関わるプロジェクトを始めました。1年後に熊は博士課程に行って、私はキャリアが全く同じ2人で団体を運営するというのも幅がないかと思って、臨床心理学を学ぶために横浜国立大学大学院の臨床心理学コースに入りました。もちろんADDSの活動と大学院での研究活動は両輪で進めて、修士論文も博士論文もADDSをフィールドとして書き上げました。今思えば、願書の出し忘れがなかったらADDSが生まれるのはもっと遅かったし、生まれなかったかもしれないです。
そもそも発達障害があるお子さんと親御さんの支援という課題との出会いは、大学1年生の時でした。アルバイトを探していて、4歳の男の子と遊ぶ中で言葉を引き出すアルバイトというのを見つけました。その子が2歳で自閉症という診断を受けた子で。アメリカで診断をされていたので、自閉症の子どもの発達を促すためのプログラムをすでに受けたことがあったんです。日本に帰ってきてから同様の支援を得ようと思っても、日本では「自閉症」や「療育」という言葉さえほとんど知られていないような状況で、当然アメリカのようなサービスは無く、親御さんが近くの大学で学生アルバイトを探して、息子さんの家庭療育のセラピストに育てようということだったんです。家庭の中で早期から療育を行うことで起きるお子さんの大きな変化を目の当たりにし、私は現場の楽しさに夢中になってしまいました。アカデミックな裏付けも必要と思い、その後心理学を専攻して大学院に行きますが、狭い研究室の中だけでできることは限られているので、もっと現場でたくさんの親子に包括的な支援を届けたいと思いました。アメリカでは、自閉症への早期療育サービスがビジネスとして成り立っている地域もあって、アメリカの企業が日本支部として進出しているところもありました。でも、保護者がサービス利用料を全額負担するのが通常で、誰もが受けられるサービスではありませんでした。もちろんお金を払える人が質の高い支援を選んで受けるということは全く否定しませんが、私たちは、日本の社会制度や文化の中で、質の高い支援を誰もが受けられる仕組みを作りたいと思っています。
3. これからやりたいと思っていること
今までは、すでにある支援機関の質を高めたり維持したりするためのプログラムの開発だったり、その再現性を高めるためのシステムやネットワークづくりをしてきました。もちろんその支援枠がコロナで縮小してしまったことも問題でしたが、そういう人たちはもう支援につながっているんですよね。一方で、まだ支援につながってもいない方が、お子さんの発達が気になっていても気軽に相談できる状況じゃない。自治体の窓口に電話して、予約して、予約した日に小さな子を連れて初めての場所へ行くって、結構ハードルが高いです。勇気を出して相談しても、ハッキリ診断に至る年齢じゃなかったり、グレーゾーンで様子を見ましょうと言われたお子さんが、何か月も、場合によっては1年以上もそのままにされてしまうケースも珍しくありません。入口にまだまだ困っている人がいるだろうに、私たちはそこへのアプローチができていませんでした。コロナで多くの自治体で乳幼児健診が休止となり、相談の枠も縮小となり、子どもの発達を客観的に見て相談する機会がさらに減っています。オンラインで全国どこからでも気軽に専門家に相談できるサービスを作ろうということになり、去年6月から開発をしてきていて、今年の4月2日、自閉症啓発デーにリリースを出したばかりです。療育に既にがっつり向き合っていらっしゃる段階の親御さんにはもちろんこれまで通りしっかり質の高い支援をしますが、その前の段階にいる方にも支援を届けていく道筋を作りたいです。
4. 座右の銘/大切にしている信条
高校生頃からずっと「歯を食いしばる」だったんですけど、今改めて聞かれて考えてみると、今は変わってきてる感じがします。「歯を食いしばる」というのは、がむしゃらにやればストレッチが効くという意味で、やれるだけ根性でやり切るようなところがあります。努力しただけ返ってくる、それが未来につながるから、今もっとやらなければいけない。かといって私は常に努力を続けられるほど勤勉ではなくて、むしろ逆ですごく怠け者なので、できてない。できてないからもっと歯を食いしばろう…という繰り返しで(笑)それで得た成果もあると思いますが、今は自分の力をマックスにしたところで、一人だけの力じゃ大したことがないので、もっと組織の力だったり、仕組みを整えていくこと、いい仲間を引き込むこと、内部の人材をもっとエンパワーしていく、楽しく働ける環境を作ってパフォーマンスを上げてもらう方が大事なんだよなぁと実感しています。知識としてはわかっていたけれど、30代前半くらいまで腹落ちしていなかったと思います。でも今は、私は歯を食いしばってないですね。
(これは後日談ですが)インタビューを受けた後、「私はもう歯を食いしばってないって気づいた」と理事の原に話したら、釈然としない表情で少し考えて、「それは、弓乃さんが歯を食いしばらなくなったんじゃなくて、『歯を食いしばる』という言葉が弓乃さんに追いつかなくなったんじゃない?」と言われました。「歯とかじゃなくて、もう全身を自然に食いしばれてるよ」ということらしいです。長い付き合いの中で、お互いを深く多面的に洞察して言語化し合えるのは、私にとってすごく大事なコミュニティです。一人で食いしばるだけだったらとっくに辞めているかも知れません。組織を運営していると色々なことがありますが、理事のLINEグループで共有して、苦しいことも色んな側面から扱っていくとだんだん面白くなってきて、一晩でだいたいのことは消化できます。これは個人的にも現場の支援でも大事にしていることですが、色んなことをなるべく面白くポジティブに捉えなおすようにしています。
5. 楽しい質問
観劇が好き:
ミュージカル(日本だと劇団四季、コロナ前にはロンドンで「レ・ミゼラブル」を見ました)、スストレートプレイ等。大学で演劇のサークルに入っていて、その先輩がやっている劇団の公演に最近は行ったりしました。私はもうファンとして見る側なんですが、大学時代は役者や制作もやらせてもらったりして、その時の先輩や後輩が脚本家になっていたり映画をつくったりしていて、本当に刺激をもらいます。
6. インタビュワーYuki’s Comment
「歯を食いしばる」という座右の銘がすぐに出てきた弓乃さん。聞いたときはビックリしましたが、その自分を追い込んで努力をして行くストイックな姿勢に、学生団体からNPOへと学業もありながら長く続けてきた秘訣があるのかなぁと思いました。次回発行のインタビューが共同代表の熊仁美さんなのですが、弓乃さんとは全く違った個性の方。2回分読んでいただくと、NPO法人ADDS共同代表コンビのバランスがわかって面白くなりそうです!